京都府指定無形文化財黒谷和紙

KUROTANI WASHI

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黒谷和紙協同組合

京都府綾部市黒谷町

800年余の歴史を継ぐ、強く美しい紙

京都府綾部市でつくられている黒谷和紙は
およそ800年前に平家の落武者が黒谷の里に隠れ住んで
生計をたてるために紙を漉いたのが始まりだと伝わっています。
たいへん丈夫で破れにくいのが特徴で、昔からさまざまな生活用品に使われてきました。
都に近い産地ゆえ、京呉服の値札やたとう紙の材料としてもお馴染みで
世界遺産に登録された二条城の修復にも使用されています。
また、ルーブル美術館の修復用紙にも採用されており
「クロタニ」の名で高い評価を得ているそう。
今も昔と変わらずに、里の人々が協力しあって
1枚1枚に想いを込めてつくりあげる和紙は
洋の東西を超えて、人々の心を惹きつけています。

京都府綾部市黒谷町の地図
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黒谷の清流が生んだ和紙の里

手漉き和紙で有名な黒谷の里は、京都府綾部市の静かな渓谷にある。集落の中央には山の水を集めた清らかな黒谷川が流れ、その川に沿うように昔ながらの家々が並んでいる。住まいの背後にはすぐに山の傾斜が迫っており、そこかしこで鳥たちの声が深くこだまする。
このまるで時が止まったかのような美しい里を中心に、周辺一帯でつくられている手漉き和紙を「黒谷和紙」というその歴史は古く、約800年前に平家の落ち武者が黒谷に隠れ住み、生計をたてるために紙を漉いたのが始まりだと伝わっている。以来、人々の暮らしに欠かせない提灯や和傘、障子などの素材に使われてきた。

一枚一枚手漉きでつくられている黒谷の和紙は強く破れにくいのが特徴で、大正時代に全国の和紙を調査した軍から「もっとも強い紙」に認定されて、乾パンを入れる袋に採用されたという。現代でもその頑丈さを活かして、クッションカバーやショッピングバッグなどのアイテムがつくられている。また、漉き上がった紙に時間をかけて型染めを施した風雅な和紙があるのも黒谷の特徴だろう。組合加工部の女性たちが、文具や名刺入れなどの小物を制作している。

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黒谷で使用される原料はほぼ楮(こうぞ)だ。楮の茎を蒸して一本一本手作業で皮をはぐ「かごへぎ」を行い、さらに表面の皮とキズを取り除いて白皮にする。アルカリ性の熱湯で煮たのち、アクやゴミを取り除いてから叩いて繊維状にする。その繊維と水とトロロアオイを混ぜて紙漉きを行うのだ。用途によっては三椏(みつまた)や麻を少量漉きこむこともあるという。昔は準備工程を協同の作業場で行い、それぞれ自宅で紙漉きをしていたが、現在は数人を除いてほとんどの職人が紙漉きも共同作業場で行っている。

1枚1枚に宿る職人の技

現在、黒谷の職人は総勢9名。かつては家族のなかで分業をしていたが、今は一人の職人がすべての工程を行っている。そのなかで名刺づくりを得意とする山本朋伸さんの作業を見学させてもらった。山本さんは10年前に大阪から移住して紙漉き職人になった人だ。
自宅の一角にある漉き場は明るく、開けた窓からは庭の緑が望めた。ときおり通り抜ける風が涼やかだが、冬は寒さが厳しいに違いない。だが、冬のほうが水が傷みにくいため、紙漉きには向いているのだそうだ。

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漉き舟に紙の素である楮の繊維と水、水に粘度をつけ、楮を浮遊させやすくするためのトロロアオイを入れる。次に桁(けた)と呼ばれる木枠に簀の子(すのこ)を挟み、漉き舟の水をすくう。たっぷりとすくったら、桁を前後に大きく揺すり、最後は細かく前後左右に揺すって繊維を均一に行き渡らせ、水だけを流し出す。この日は違う紙を漉いていたが、耳付きの名刺の場合は、名刺サイズに区切られた桁を使う。枠が多いぶん、均一に漉くのはさらに技術がいるそうだ。

紙を漉く作業は不思議な魅力があり、ついつい見入ってしまう。ぱしゃん、ぱしゃん、じゃば、じゃば、じゃば。激しく液面は波打ち、水音はリズミカルで心地いい。紙が漉けると、桁から外して重ねて置いていく。
一日に100~150回これを繰り返すわけだが、すべて腕の力で行うためなかなかの力仕事だ。桁を吊るしている部分を弓竹といい、この竹のしなりを利用して桁を操る。身体に合ったしなりがでないとうまく操れなくなるため、職人はそれぞれ自分専用の弓竹を使うそうだ。

必要な枚数を漉き終えたら重しを載せて水分を切る。それから一枚一枚板に貼りつけ天日で乾かしていく。水桶に椿の葉が浸してあるのを不思議に思っていると、「板に張り付けて乾かすときは刷毛を使うのですが、名刺の紙はさらに椿の葉でこすると平に仕上がるんですよ」と、山本さんが教えてくれた。
一枚一枚手で漉くだけでも手間隙がかかっているのに、実は干すときも一枚一枚ていねいな仕事がなされているのだ。小さな名刺紙にも妥協のない仕事ぶりに、頭が下がる。

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本当に大変な仕事だが、それだけに上手くできたときはやりがいもひとしおではないだろうか。そう思って、わたしたちを山本さんの元へ案内してくれた組合専務理事の山城睦子さんに尋ねてみた。山城さんは黒谷出身者で、祖母も母も紙漉きをしていたという女性職人だ。だが、返ってきた答えは予想を越えるものだった。
「毎回課題が見つかるので『うまくできた』と思ったことはないんですよ。舟の濃度や仕上がった紙の目の詰まり方など、いつも模索しています。何十年も紙漉きをして最近引退した70~80代のお婆ちゃんたちも『最後までうまくできたと思えたことは無かったなあ』と言っていますね」
その言葉からは、紙漉きの奥深さが伝わってくるようだった。

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人々の恊働でつくりあげる

「あ、ゆりこさんの刷毛やね」。山本さんの工房にある白い刷毛を見つけて、山城さんが声をあげた。ゆりこさんとは最近引退された名人の女性で、便箋用の和紙を干すのに使っていた刷毛を山本さんが譲り受けたのだそうだ。さすが名人が愛用していた刷毛だけあり使い勝手が全く違うのだという。誰がどんな道具を使っているのかまで知り尽くしていることからも、職人仲間の親密な関係性が伝わってくるようだった。

楮の下準備は引退した女性たちが今も手助けしてくれるのだそうで、この日も黒谷川に楮が浸してあった。一度蒸して黒皮を剥いだ楮を、さらに柔らかくして白皮にするため川に浸すのである。また、6〜7年前からは、職人の有志で楮の栽培にも取り組みはじめており、原料の一部を自給しているという。

黒谷では和紙に作家名や職人の個人名がつけられることはない。それは集落全体でつくりあげているものだからだ。今も昔も、村全体で助け合いながら、紙漉きの技を脈々と受け継いでいるのである。
黒谷の地を訪れるといつも懐かしい気持になるのだが、それは山の緑や川のせせらぎといった自然の風景だけが理由ではなかったのだ。豊かで厳しい自然と向き合いながら、ただひたすらに良い紙を漉くため、皆が協力しあう。かつて日本のどこにでもあった人々の美しいありようが、黒谷の地には今もしっかりと息づいていている。

<産学連携:撮影・編集>
龍谷大学 社会学部 林 志乃、四田ほのか

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黒谷和紙

19,200円から / 50枚

寸法
約55×91mm(耳つき)
厚さ
約0.8g
原料
楮に極少量の三椏・麻入り
煮熟
ソーダ灰
精製
みだし(ちりとり)
叩解
ホーレンビーター
漉方
溜め漉き
乾燥
天日乾燥
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