人間国宝・岩野市兵衛越前和紙

ECHIZEN WASHI

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人間国宝九代岩野 市兵衛さん

福井県越前市

1500年の歴史が息づく、日本一の和紙の産地

福井県越前地方の岡太川上流に現れた女神が、
紙漉きの技を村人に伝えたことが越前和紙のはじまりといわれています。
この女神を川上御前として崇めているのが、
全国で唯一「紙の神様」を祀っている岡太神社です。
越前和紙は、室町時代から江戸時代にかけて公家や武家階級の公用紙として使われ、
幕府や領主の保護を受けて発展していきました。
日本最古の紙幣といわれる福井藩札も生産し、
およそ1500年にわたり紙漉きの技は受け継がれています。
そして今も、品質・種類・量のすべてにおいて日本一の和紙の産地として、
世界に認められる和紙を生産し続けています。

福井県越前市の地図
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現役の越前和紙職人として
海外からも依頼が絶えない人間国宝

福井県越前市、山に囲まれたのどかな集落の中に、人間国宝・岩野市兵衛さんの工房はある。1978年に九代目・岩野市兵衛を襲名し、2000年6月には、父である八代目市兵衛に続き国指定重要無形文化財、いわゆる人間国宝に認定された市兵衛さんは今も現役。10代目を継ぐ息子、順市さんとともに、86歳という年齢を感じさせない軽快なリズムで簾桁を操り、今も紙を漉いている。
市兵衛さんの和紙は、パリのルーブル美術館で修復に使われている他、多くの美術家が愛用しており、世界中からの注文が後を絶たない。最近では、日本を代表する美術家・草間彌生さんが木版画に使用。紫綬褒章を授受した写真家・細江英公さんも市兵衛さんの和紙に写真をプリントし、素晴らしい作品を制作している。

一度でも市兵衛さんの和紙で木版画を制作した人は、他の和紙は使えないという。木版画の場合、多いときには200〜300回と版を重ねる。それだけの回数バレンで擦っても紙が傷まない丈夫さと、繰り返し絵の具を吸う力が和紙には求められる。「市兵衛さんの和紙だと、サーッとバレンを滑らせるだけでキレイに色が載るから作業が楽。他の紙だと力を入れて擦らないと、きれいに刷れない」と、木版画作家からの人気が高い。絵の具をスッと吸い込む柔らかさと、何百回もの刷りに耐えられる強さを兼ね備えているのが、市兵衛さんの和紙なのだ。

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昔ながらの製法を頑なに守り、「越前生漉奉書」だけを漉き続ける

「私の家は、代々『越前生漉奉書(えちぜんきずきぼうしょ)』だけを漉いてきたんです。昔ながらの製造工程を頑なに守って、手間暇かけて、頑固にこの紙だけを漉いてきた。その製法が重要無形文化財に指定されたんです。私の手柄やない。紙漉きは死ぬまで一年生」と、あくまで謙虚な市兵衛さん。

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楮だけでつくられる越前生漉奉書は、越前和紙の最高峰。1000年は保存できるといわれるほど丈夫な和紙で、主に木版画や美術品の修復に用いられる。原料の楮は茨城県の大子那須楮。繊維がほぐれやすいため処理がしやすく、1本1本の繊維が長いので丈夫な和紙に仕上がるという。

和紙の端紙を手にした市兵衛さんが、楮の繊維を見せてくださった。和紙の折り目にさっと水を付けて左右に引っ張ると、切り口からは絹糸のように細かい楮の繊維がびっしり現れる。楮だけでつくる越前生漉奉書の精巧な手仕事の証を目にした気がした。

越前生漉奉書は、楮を煮るときにソーダ灰を用いる他は薬品を一切使わず、すべて手作業による伝統的なやり方で楮の処理を行っている。昔は草木灰を使っていたが今は手に入らないため、ソーダ灰で代用しているそうだ。柔らかく煮た楮は、室内に水が流れる「川小屋」で水に晒し、硬い繊維片をひとつずつ丁寧に手で取り除いていく。こうした原料づくりに時間がかかるため、紙を漉くのは週2日だけ。1日200枚漉いても、週にたったの400枚。しかもそのすべてが商品になるわけではない。

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市兵衛さんの工房では、漉き上がった和紙を銀杏の板に張り付けて乾燥させる。名刺用の和紙はサイズが小さいので鉄板に張るそうだが、それ以外の紙はすべて銀杏の板張りだ。
銀杏の木は、杉や松のように年輪がなく表面が滑らかですべすべ。和紙らしい、とてもいい風合いに仕上がるのだという。

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長年の感覚だけで
0.1mm単位の厚さを漉き分ける

「私の代で紙漉きは終わろうと思うてたんやけど、近頃和紙が見直されてきたようで休む暇がない」と話す市兵衛さん。海外からの注文も多く、取材に訪れたときはフランスの紙屋に納めるという和紙を漉いていた。「昔はお彼岸過ぎたら紙が漉きやすいシーズンやったけど、最近は暑いですからねりの粘りがすぐ弱まる」そう言って、「ねり」と呼ばれるトロロアオイの抽出液を漉き舟に足す。「紙漉きの歌で『7つ8つから紙漉き習ろうて、ねりの入れ具合まだ知らぬ』ゆうくらい、ねりの加減が難しい。暑いと粘りが弱くなるから夏の紙漉きは大変。冬は漉き舟一杯分を漉き終わるまで、ずっと同じ調子で原料にとろみがあるから漉きやすい」。

この日漉いていたのは、厚さ100分の20mmの紙。簾桁に何度も原料を流し込む「流し漉き」と呼ばれる手法で原料を重ねながら、長年の経験による感覚だけで仕上がりの厚みを0.1mm単位で漉き分けていく。まさに職人技だ。名刺用の和紙は「溜め漉き」という手法で漉かれ、原料の楮を「流し漉き」よりたくさん入れる。ねりの量も増やし、濃度が濃い原料を一気に簾桁にすくい入れ、ゆっくりと静かに広げて厚みのある名刺用の和紙を漉き上げる

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ルーブル美術館が、世界一の修復紙として選んだ市兵衛の和紙

市兵衛さんの和紙は、パリのルーブル美術館で美術品の修復にも使われている。ルーブル美術館に納めるのは、100分の10mm・100分の20mm・100分の30mmの3種類の和紙。「5〜6年前にルーブルから紙を漉いてくれって話がきて、最初は断ったの。日本の注文だけでも大変だからって。それでも、市兵衛さんの和紙は修復には最高のものだから、どうしても漉いてくれって頼まれて」以来、毎年200枚以上の和紙をルーブル美術館に送っている。ルーブル美術館が世界中から集めた紙をテストした結果、最も修復に適した紙として市兵衛さんの和紙が選ばれたのだ。原料が天然の楮だけで余計な薬品を使わない昔ながらの手法による和紙は、酸性でもアルカリ性でもなく中性。丈夫で長期保存に耐えられるうえ、1枚の和紙を何枚にもめくって使うこともできるため、修復用紙としてこれ以上のものはないと判断されたようだ。

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市兵衛さんの和紙が中性なのは、使っている水によるものだと思われる。紙漉きには、地下30mから汲み上げた井戸水を使用している。この井戸水は軟水で、検査したところ不純物がとても少ない中性の水で、鉄分が全く含まれていなかったそうだ。「同じ原料を使って同じように漉いても、水が違うとこれと同じ和紙はできない。私の和紙づくりは水の助けが大きい。一番大事なのは水。紙漉きの技術に特別なものはないんです。水に恵まれたこと、越前生漉奉書だけを漉き続けてきたこと、親から子へと代々受け継がれてきた目に見えんものが認められたんだと思います」そう語る市兵衛さんは、この土地の水のように柔らかく優しい表情をしていた。

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越前和紙

19,500円から / 50枚
※岩野市兵衛監修のもと、信洋舎製紙所で漉います。

厚さ
極厚
原料
大子那須楮100%
煮熟
ソーダ灰
精製
ちりとり
叩解
手打叩解ナギナタビーター仕上げ
漉方
溜め漉き
乾燥
室乾燥
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