ユネスコ無形文化遺産石州和紙

SEKISYU WASHI

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西田製紙所三代目西田 裕さん

島根県浜田市三隅町

ユネスコ無形文化遺産に登録された
3紙のひとつ「石州半紙」

石州和紙は、島根県の西部にある石見地方でつくられている和紙。
寛政10年(1798年)に発刊された国東治兵衛著書の「紙漉重宝記」に
「慶雲・和銅(704年〜715年)のころ、柿本人麻呂が石見の国の守護で民に紙漉きを教えた」と記されており、約1300年の歴史があります。
昭和44年には、「石州半紙」が国の重要無形文化財に指定され、
平成26年には、「石州半紙」に
「本美濃紙(岐阜県美濃市)」「細川紙(埼玉県小川町、東秩父村)」を加えた
3つの和紙が、ユネスコ無形文化遺産に記載されました。

島根県浜田市三隅町の地図
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自然の力を借りて
地道に古くからの和紙づくりを続ける

日本海からほど近い島根県浜田市三隅町は、約1300年の歴史を誇る和紙の産地。原料に楮・三椏・雁皮を使い、ねりにトロロアオイを使用した流し漉きによる石州和紙は、現在4軒の製紙所で漉かれている。その中の1軒、西田製紙所の主である西田裕さんは、この地域の製紙所代表としては最年少の47歳。楮の栽培から原料づくり、紙漉きまで、伝統的な手作業による和紙づくりにご夫婦で取り組んでいる。

西田製紙所の広い敷地には、大きな漉き場と、料紙加工専用の工房、楮のちりとりを行う小屋、和紙を保管する家、楮を蒸す巨大な窯がある。窯の燃料には裏山から採れる薪を使い、原料である楮の処理には山水を、紙漉きには地下水を使用。除草にはヤギやニワトリの力を借りて、自然と融合した和紙工房を目指している。「実際はヤギ1匹が食べる量では除草がおいつかないけど、ヤギはもう家族の一員」と西田さんは笑う。

石州和紙の特徴は、原料である楮を処理するときに甘皮を残すこと。小刀を使って楮の余分な皮を削る(そぞる)際、あえて薄緑色の甘皮を所々残すことで強靱な和紙になるのだという。真っ白な繊維だけでなく甘皮が混じることによって、和紙は強靱であたたかみのある生成り色に仕上がる。また紙を漉くときは前後に揺する「縦ゆり」だけで、横に揺すらないのも石州の特徴だ。簾桁に紐で繋がれている弓竹のしなりを利用して、軽快なリズムで紙を漉いていく。

  • 楮の画像01
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  • 楮の画像06

手仕事で手間と時間をかけて漉きあげる、上級の「石州半紙」

ユネスコ無形文化遺産に登録されている「石州半紙」は、地元で栽培された楮100%の流し漉き。サイズと厚みに規格があり、完成した和紙は昔ながらの木製の定規と専用の包丁で裁断する。石州半紙には「鶴」と「稀」の2種類があり、一般的な「鶴」は鉄板乾燥で表面をつるりと滑らかに仕上げ、上級の「稀」は銀杏の板干しにして和紙の風合いを活かした仕上がりにする。

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  • 石州和紙づくりの画像04
  • 石州和紙づくりの画像05
  • 石州和紙づくりの画像06

通常の和紙は叩解機で楮を叩きほぐすが、「稀」は楮の叩解も手作業で行う。分厚いまな板の上に楮を置き、ずっしり重みのある棍棒で端から少しずつ叩いて繊維をほぐす。楮を端から端まで叩くこと表裏6回を繰り返す、根気と力のいる作業だ。完成した楮は、素人目には叩解機と同じような仕上がりに見え、職人にしかその違いは見分けられないように思える。「漉き舟の水に投入したときの散らけ方がきれいなんです。毎日漉いている人間にしかわからない感覚だと思うけど、気持ちいい紙が漉ける」と、西田さんは言う。漉き上がった和紙は、刷毛や椿の葉で干し板に張り、天日で乾燥させる。

名刺用の和紙は、西田製紙所では竹簾を使った溜め漉きの桁でつくられる。原料を一気にすくい、原料を桁の枠から剥がすようなイメージで軽く揺することで、耳まで美しく仕上げている。漉き上げたら間に和紙を挟んでどんどん重ね、水を絞る。間紙と呼ぶこの和紙は、30年以上も乾かしては繰り返し使い続けているというから驚きだ。和紙の丈夫さ、耐久性の高さを改めて実感した。

  • 石州和紙づくりの画像07
  • 石州和紙づくりの画像08
  • 石州和紙づくりの画像09
  • 西田製紙所の画像01
  • 西田製紙所の画像02
  • 西田製紙所の画像03

後継者不足の問題に向き合いながら
伝統を守る

西田製紙所では、石州半紙の他に石見神楽に使われる和紙もつくっている。石見神楽は、日本遺産に認定されている島根県浜田市の伝統芸能。その花形演目に登場する大蛇や神楽面に用いられる和紙を提供している。激しく動く大蛇に用いられるのは、丈夫で厚みのある「蛇胴紙」と呼ばれる和紙。神楽面は元々木彫りだったが和紙が使われるようになり、軽くて丈夫で割れにくいことから、今ではほとんどの面が和紙でつくられている。石膏型に粘土を詰めて面の型をつくり、そこに和紙を貼り付けて乾燥させたものに着色して神楽面が完成する。

また三椏を栽培している高齢の生産者からも、「あんたのところで三椏蒸しを引き受けて欲しい」と声がかかった。そのため、去年からは三椏の処理も手掛けるようになり、ますますやることが増えたという。

一番大切な原料である楮の生産量も減ってきていて、地元の楮だけでは足りないことも悩みのひとつ。地元の楮100%でなければ、重要無形文化財である「石州半紙」とは言えないため、原料不足は深刻な問題だ。ねりの原料トロロアオイの産地でも高齢化が進み、同様の問題を抱えている。
「一般的な紙をつくるパルプの原料となる木は、育てるのに何十年もかかるけど、楮は栽培して1年目から収穫できる。森林破壊につながる紙とは違い、自然環境に負担をかけない和紙がもっと見直されて欲しい」と、西田さんは語る。

  • 西田製紙所の画像04
  • 西田製紙所の画像05

紙漉きに使う簾などの道具類をつくる人も減ってきていて、最近では高知県と岐阜県美濃市でわずかに道具職人が残っているのみ。
これまで訪れてきたすべての和紙産地で、和紙づくりを支える原料や道具を生産する人たちが減少していることへの不安の声を聞いた。

新しい工夫の和紙づくりにも挑戦し、伝統を未来へつなぐ

西田製紙所を興したのは、西田さんの祖父である先代。
西田さんの父親は、料紙と呼ばれる装飾を施した和紙づくりを京都で行っていて、西田製紙所でも専用の工房で料紙加工に取り組んでいる。料紙とは、和紙に金箔や銀箔を施したり、染め付けをしたりして加工した和紙のこと。

  • こんにゃく糊を張った和紙の画像01
  • こんにゃく糊を張った和紙の画像02
  • こんにゃく糊を張った和紙の画像03
  • こんにゃく糊を張った和紙の画像04

和紙製品の材料となる、こんにゃく糊を張った和紙もつくっている。他にも、漉き上げたばかりの柔らかい状態の和紙に水滴を散らして模様を付けた「落水紙」、稲穂や紅葉を漉き込んだ和紙など、ユニークな創作和紙も制作している。

「店の内装用やジュエリーのディスプレイ用など、いろんな和紙をつくっています。難しい注文をしてくる人もいるけど、『できません』とは言わない。試作しているうちに思いがけないアイデアが出てくることもあるし、工夫を考えながらあれこれ試すのが楽しい」と西田さん。創作和紙は、照明やタペストリー、店の内装などにも使われている。

工房では和紙づくりだけでなく、紙漉き体験も行っている。浜田市はブータン王国と交流があり、ブータン王国の研修生が紙漉きを習いに来たこともあるそうだ。ブータン王国にも独自の紙漉き文化があり、西田さんも現地の紙漉きを見学に行った経験がある。ブータン王国の紙づくりは、木枠に布を張って繊維の荒い原料をすくい上げてそのまま干す素朴なやり方。日本の繊細な紙漉き技術を持ち帰ったブータン王国の研修生たちが、今は自国で和紙づくりを行っているそうだ。海を渡り、遠いブータンの地に日本の和紙文化が伝わっているとは、不思議な感覚がする。和紙は日本が世界に誇れる伝統工芸品のひとつ。ユネスコ無形文化遺産に登録されている和紙を日常的に使うことができる贅沢を、多くの人に味わってもらいたいと思う。

  • 石州和紙の和紙名刺画像01
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  • 石州和紙の和紙名刺サムネイル01
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  • 石州和紙の和紙名刺サムネイル04

石州和紙

18,800円から / 50枚

厚さ
極厚
原料
楮 100%
煮熟
ソーダ灰
精製
ちりとり
叩解
ホーレンダービーター
漉方
溜め漉き
乾燥
鉄板乾燥
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